マネジメント能力とは、組織の目標達成に向けて、人・モノ・金・情報といった
経営資源を計画的かつ効果的に活用・調整する行為を指します。
この概念は産業革命後、組織の規模が拡大し、業務の分業化が進んだ
19世紀末に体系化されました。
初期の代表的な理論家はフレデリック・テイラーで、彼は「科学的管理法」に
よって業務の効率化を図りました[1]。その後、アンリ・ファヨールが
「管理過程論」により、計画・組織・命令・調整・統制というマネジメント
機能を整理しました[2]。
1950年代になると、ピーター・ドラッカーが「目標による管理(MBO)」を提唱し、
マネジメント能力を単なる統制ではなく、目標設定と成果志向のプロセスと
位置付けました[3]。
1990年にはジョン・コッターが、マネジメント能力を「複雑性への対処」と定義し、
計画立案、組織構造の整備、業務の安定的遂行といった側面を重視しました[4]。
これは、変化を導くリーダーシップとの対比の中で、組織運営の安定化という
マネジメント能力本来の意義を再確認させるものでした。
近年では、環境変化への柔軟な対応、心理的安全性、チーム力の向上といった
ソフトスキル重視のマネジメント能力が注目されています。
これはリーダー個人の資質だけでなく、組織文化や構造にも深く関わっており、
VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を伴う時代)においては、
適応力と共感力を併せ持つマネジメント能力が重要視されています[5]。
Managerial Practices Survey(MPS)[6]
因子数:5因子
人的資源管理の具体的実践を測定する尺度で、トレーニングや評価制度、報酬などが含まれます。組織パフォーマンスとの関連性を重視した内容となっています。
Managerial Behavior Questionnaire(MBQ)[7]
因子数:12因子
リーダーの具体的な行動を詳細に分類し、計画、支援、調整など多様な管理行動を評価します。マネージャーの行動特性を包括的に測定可能です。
Multifactor Leadership Questionnaire(MLQ)[8]
因子数:複数の因子(主に変革型、取引型、放任型の3カテゴリー)
変革型、取引型、放任型という3つのリーダーシップ様式に基づく尺度です。部下への影響や成果に直結する行動スタイルを分類・測定できます。
マネジリアル・グリッド尺度(日本版)[9]
因子数:2因子
人間志向と業績志向の2軸でマネジメント能力スタイルを分類します。上司の管理特性が部下に与える影響を明らかにするために活用されます。
PM理論に基づくマネジメント能力尺度(三隅二不二)[10]
因子数:2因子
Performance(目標達成)とMaintenance(集団維持)という二軸で管理者行動を評価します。P型、M型、PM型などリーダータイプを分類可能です。
このようにマネジメント能力は前提によって多義的に変わるものです。
そこで本診断では、ジョン・コッター(1990)のマネジメント能力を土台として作成します。
すなわち、変革者としてのリーダーシップではなく、計画、調整、組織化、問題解決といった実務的機能に注目し、現代の組織運営に必要な安定性と秩序の確保、システムの効率的運用を重視したマネジメント能力を多面的に測定します。
対象としては、中間管理職(課長、部長など)、現場の監督者、チームリーダー、一部の上級管理職(部門長、事業部長など)が挙げられます。
先行研究の分析を踏まえ、現役経営者、公認心理師、心理学の大学院修了者が中心となり、集中的にブレーンストーミングを実施しました。ブレーンストーミングで洗い出された多様な意見は、KJ法を用いて精査・分類し、質問項目を絞り込みました。その結果、以下の因子を仮定しました。
1.プランニング力
業務の流れや役割分担を整理し、部下が動きやすい仕組みを整える力。
2.進捗管理力
部下の進捗・納期・品質を把握し、必要に応じて調整・改善する力。
3.意思決定力
状況を的確に判断し、優先順位を定めて適切な判断を下す力。
4.育成力
部下の成長を支援し、適切な指導・フィードバックを行う力。
5.ラポール形成力
部下・他部署・上司との信頼関係を築き、相手の話を丁寧に聴きながら協力体制を維持する力。
6.自己管理力
マネージャー自身の感情・ストレス・時間を適切にコントロールし、安定したパフォーマンスを維持する力。
7.メンタルヘルス配慮力
部下の心身の変化に気づき、過剰負荷や不安を予防・緩和する力。
8.ハラスメント予防力
威圧・侮辱・無自覚な発言を避け、安心して働ける職場環境を保つ力。
各因子の質問については、短時間で診断を終え、結果をスムーズに把握できるよう、それぞれの因子について4項目ずつ厳選して採用しています。
【プランニング力】
PDSAの検証をチームで定期的に行える
リスクを事前に考え対処法を準備している
全員が納得する役割分担を決められる
計画の進捗状況を部下と共有できる
【進捗管理力】
期限を守りながら品質も確保できる
進捗をデータ化して定期チェックする
作業量の偏りを継続的に調整できる
トラブル時も全体管理を維持できる
【意思決定力】
情報が不足した状況でも判断を下せる
対立する意見がある中で最善策を選べる
部下が納得しにくい判断も説明できる
優先順位が競合したとき迅速に整理できる
【育成力】
部下の成長段階に合わせた指導ができる
改善点を具体的かつ前向きに伝えられる
部下が自覚していない強みを引き出せる
繰り返す失敗の根本原因を部下と探れる
【ラポール形成力】
初対面のメンバーから本音を引き出せる
意見が対立しても安全な雰囲気を保てる
言いづらい悩みも部下から相談される
価値観が異なる部下の立場にも立てる
【自己管理力】
感情的になりそうな場面でも冷静でいられる
ストレスが高まる前に自分で対処できる
多忙な時期でも安定したパフォーマンスを保てる
振り返りから実際に言動を改善できる
【メンタルヘルス配慮力】
精神疾患の種類と初期症状を説明できる
過剰な業務負荷にならないよう調整できる
表情や言動の微妙な変化を見逃さない
不調の部下への支援を適切に手配できる
【ハラスメント予防力】
ハラスメントの具体的事例を説明できる
自分の言葉が相手に与える影響を省みる
役職の差を超えて部下が発言できる
言動に潜む威圧感を自覚できる
評価の基準
・質問項目数
8因子×各4問
・5件法
全く当てはまらない 0
当てはまらない 1
どちらともいえない 2
当てはまる 3
よく当てはまる 4
・各因子
高中低の基準
13~16点 良好
9~12点 やや注意
0~8点 注意
・総合評価の基準
かなり高い 96~128点 中央値 +1SD 以上
やや高い 70~95点 中央値 ~ +1SD
やや低い 45~69点 −1SD ~ 中央値
かなり低い 0~44点 −1SD 未満
中央値(μ):70点
標準偏差(σ):25点
総合得点の範囲:0~128点
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
[1] Taylor, F. W. (1911). The Principles of Scientific Management. New York: Harper & Brothers.
[2] Fayol, H. (1916). Administration Industrielle et Générale. Paris: Dunod.
[3] Drucker, P. F. (1954). The Practice of Management. New York: Harper & Row.
[4] Kotter, J. P. (1988). The Leadership Factor. New York: Free Press.
[5] Edmondson, A. (2019). The Fearless Organization. Wiley.
[6] Delaney, J. T., & Huselid, M. A. (1996). The impact of human resource management practices on perceptions of organizational performance. Academy of Management Journal, 39(4), 949–969.
[7] Yukl, G., Gordon, A., & Taber, T. (2002). A hierarchical taxonomy of leadership behavior: Integrating a half century of behavior research. Journal of Leadership & Organizational Studies, 9(1), 15–32.
[8] Bass, B. M., & Avolio, B. J. (1995). MLQ Multifactor Leadership Questionnaire Manual. Mind Garden.
[9] 杉山明子・嶋田洋徳(2005).マネジリアル・グリッドに基づく上司のリーダーシップスタイルが部下の職務満足に及ぼす影響.経営行動科学, 18(2), 135–145.
[10] 三隅二不二(1974).リーダーシップの研究:PM理論の展開と応用. 誠信書房.