感情を理解する人は、その感情を利用することもできます。例えば、気持ちが明るい時は友人と余暇を過ごし、暗い時は部屋の掃除をするなど、使い分けることができます。
EQでは他人の感情を読み取る力も重視されています。他人の表情をよく見ている人や他人の感情に気がつける人は、やさしい言葉をかけ、メンタルヘルスを向上させることができます。
感情をそのまま出すと、問題になることがあります。特に怒りはリスクが高く、コントロールする必要があります。感情の管理ができているか、充分注意してください。
・EQ概念の誕生と普及
EQ(Emotional Intelligence、心の知能指数)の概念は、1990年代に大きな発展を遂げました。そのきっかけとなったのが、科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマンによる著書『Emotional Intelligence』(邦題『EQ こころの知能指数』)の出版です[1]。この本は1995年に刊行され、世界的なベストセラーとなり、EQという用語が広く一般に知られるようになりました。
ゴールマンの著書以前から、感情と知性の関係については心理学の分野で研究が行われていました。特に、ピーター・サロベイとジョン・メイヤーは1990年に発表した論文において、EQを「自己および他者の感情をモニターし、識別し、それらの情報を用いて思考と行動を導く能力」と定義し、EQの理論的基盤を築きました[2]。
・主要な理論モデル:4つのブランチモデル
その後、サロベイ、メイヤー、カルーソらは、EQを構成する能力を体系的に整理した「4つのブランチモデル(Four-Branch Model)」を提唱しました[3]。このモデルでは、感情に関する能力を次の4領域に分類しています。
感情の知覚・表出(Perceiving and Expressing Emotion)
自己および他者の感情を正確に認識し、非言語的・言語的に適切に表現する能力。
感情の同化(Using Emotion to Facilitate Thought)
感情が思考にどのように影響するかを理解し、創造性や意思決定に活用する能力。
感情の理解(Understanding Emotions)
感情の原因、時間的変化、複雑な感情の相互関係を理解する能力。
感情の管理・調整(Managing Emotions)
自他の感情を効果的に調整・コントロールする能力。
・EQの応用と展望
このような理論的発展により、EQはリーダーシップ、チームワーク、ストレスマネジメント、教育といった幅広い分野で実践的に応用されるようになりました[4]。特にビジネスや教育現場では、EQを高めるためのトレーニングやプログラムが導入され、その効果が報告されています。
・EQ研究の推移と本尺度作成の意義
一方、2010年代以降、EQ研究の焦点はより洗練された側面に移行しました。その背景には、EQが包括的かつ多面的な概念であるため、単一の統計モデルで捉えることの難しさに関する議論があります[5]。しかし、現実社会における人間関係の多くは、誤解、怒りの爆発、共感の欠如など、感情に起因する問題によって複雑化しています。したがって、EQの測定と応用は、依然として実務的に重要な課題であり、現代のニーズに合わせた新たな測定尺度の作成には十分な意義があります。
・EQに関する既存尺度
EQを測定するための尺度は、国内外で複数開発されています。以下に代表的な先行研究を紹介します。
Mayer-Salovey-Caruso Emotional Intelligence Test(MSCEIT)(2002)
サロベイ、メイヤー、カルーソによって開発された能力ベースの測定尺度で、前述の4つのブランチモデルに基づいて構成されます。客観的なタスク遂行によりEQを評価する点が特徴です[6]。
Emotional Quotient Inventory(EQ-i)(1997)
イスラエルの心理学者レウヴェン・バロンによって開発された自己報告型の尺度であり、対人関係、ストレス耐性、自己認識など広範な因子をカバーします。臨床・教育・産業領域で広く用いられています[7]。
大竹ら(2001)による情動知能尺度(EQS)
日本人を対象とした情動知能の測定尺度で、「自己対応」「対人対応」「状況対応」の3因子から構成されます。日本文化に即した構成となっており、国内での実証研究にも基づいています[8]。
本尺度の制作は、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したメンバーが中心となり検討を行いました。具体的には、先行研究である4つのブランチモデルをベースとしつつ、その他の研究論文(例えば、バロンのEQ-iに見られるような多因子モデル)も参考にしながら議論を重ねました。
検討の結果、4つのブランチモデルには、自己と他者のEQが一体化している点、感情の利用と調整に重複が見られる点、また抽象度が高く実用性に欠けるといった課題があると判断しました。そこで、これらの課題を克服し、より包括的かつ実用的な尺度を目指し、5つの因子からなる尺度を作成することとしました。また、回答者の負担を軽減し、短時間で診断を終えて結果を把握できるようにするため、各因子には4つの質問項目を採用しています。
1.自己感情の理解
自分の感情を日頃から気にかける
複雑な感情も的確な言葉で伝える
感情の強みと弱みを理解している
自分の感情パターンを認識している
2.自己感情の利用
感情に応じて行動を選択できる
困難な感情を成長機会に変える
自分のやる気を効果的に引き出す
ネガティブ感情を行動の原動力にする
3.他者感情の知覚
相手の声から気持ちを推測する
表情や様子から感情を推測する
相手の感情変化にすぐ気づく
言葉の裏にある真意を気に掛ける
4.共感性
相手の立場になって考える
悩んでいる人の気持ちがわかる
映画やドラマで感情移入する
他者の感情に同調しやすい
5.感情の抑制力
感情を安定的に保てる
イライラを静めるのが得意だ
深刻な状況でも冷静さを保つ
感情的な衝動に流されない
・質問項目数
5因子×各4問
・5件法
全く当てはまらない 0
当てはまらない 1
どちらともいえない 2
当てはまる 3
よく当てはまる 4
・各因子
高中低の基準
12~16点 良好
8~11点 やや注意
0~7点 注意
・総合評価の基準
61~80点 かなり良好
46~60点 良好
31~45点 やや注意
0~30点 注意
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
[1] Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ. New York: Bantam Books.
[2] Salovey, P., & Mayer, J. D. (1990). Emotional intelligence. Imagination, Cognition and Personality, 9(3), 185–211.
[3] Mayer, J. D., Salovey, P., & Caruso, D. R. (2000). Models of emotional intelligence. In R. J. Sternberg (Ed.), Handbook of intelligence (pp. 396–420). Cambridge University Press.
[4] Cherniss, C. (2000). Emotional intelligence: What it is and why it matters. Consortium for Research on Emotional Intelligence in Organizations, Rutgers University.
[5] Matthews, G., Zeidner, M., & Roberts, R. D. (2004). Emotional intelligence: Science and myth. MIT Press.
[6] Mayer, J. D., Salovey, P., & Caruso, D. R. (2002). Mayer-Salovey-Caruso Emotional Intelligence Test (MSCEIT) User’s Manual. Toronto: Multi-Health Systems.
[7] Bar-On, R. (1997). Bar-On Emotional Quotient Inventory (EQ-i): Technical Manual. Toronto: Multi-Health Systems.
[8] 大竹恵子・島津明人・長嶋克昌(2001).情動知能尺度(EQS)の作成.心理学研究, 72(5), 427–434.