感情を理解する人は、その感情を利用することもできます。例えば、気持ちが明るい時は友人と余暇を過ごし、暗い時は部屋の掃除をするなど、使い分けることができます。
EQでは他人の感情を読み取る力も重視されています。他人の表情をよく見ている人や他人の感情に気がつける人は、やさしい言葉をかけ、メンタルヘルスを向上させることができます。
感情をそのまま出すと、問題になることがあります。特に怒りはリスクが高く、コントロールする必要があります。感情の管理ができているか、充分注意してください。
EQは1990年代から発展してきました。科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマンが「Emotional Intelligence(感情的知性)」という本を出版し、ベストセラーになったことで、社会に広がっていきました。その後、EQについては様々な研究がなされてきました。例えば、サロベイら(2000)[2]は4つのブランチモデル(four-branch modelを仮定しています。ブランチモデルは感情に関する能力は4つの領域からなるという仮説です。
具体的には
感情の知覚・表出(perceiving and expressing emotion)
感情の同化(assimilating emotion in thought)
感情の理解(understanding emotions)
感情の管理・調整(reflectively regulating emotions)
が挙げられます。感情知能指数については、わが国でも複数の尺度が作成されています。例えば、大竹ら(2001)[3]は自己対応、対人対応、状況対応の3領域からなる情動知能尺度(EQS : エクス)を開発しています。一方で、2010年以降はEQに関する研究がやや下火になっています。EQは極めて多くの概念を含む言葉であり、様々な因子が複雑に絡み合う概念です。そのため、統計的な妥当性が取りにくく、研究に不向きであることが理由として挙げられます。しかしながらEQは、現実の対人関係では「明らかに」存在しているものです。人間関係のトラブルの大半は誤解や怒りのコントロール不足から生じます。これらの現実社会の需要を鑑み、尺度を作成することとしました。
公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となり検討を行いました。具体的には4ブランチモデルをベースとして、他の研究論文も参考にしながら議論を行いました。検討の結果、4ブランチモデルでは、自分と他者のEQが一体化している、感情の利用と調整に重複がみられる、抽象度が高く実用性に欠けるなどの問題があると判断しました。そこで4因子ではなく、他の論文も参考にしながら、5因子に増やした尺度を作成することとしました。また、短時間で診断が終わり、結果を把握できるようにするため、それぞれ3つの項目を採用しました。
- ・自己感情の理解
- 自分の感情を気にかける方だ
- 文章で自分の感情の動きを細かく描写できる
- 複自分の感情傾向の長所と短所を把握している
- ・自己感情の利用
- 自分のやる気を引き出すことができる
- 感情に応じて行動を選択できる
- 相元気な時、落ち込む時、それぞれの感情を活かせる
- ・他者感情の知覚
- 相手の姿勢や声の抑揚をしっかり観察する
- 相手の表情や様子から感情を推測する
- 相手の感情が変化するとすぐわかる
- ・共感性
- 相手の話にしっかりと共感することができる
- 相手の感情の本質的な部分まで配慮できる
- 相手の感情の変化に対応するのが得意だ
- ・感情の抑制力
- 感情をそのままぶつけることはない
- イライラした気持ちを静めるのが得意だ
- 冷静になる考え方ができる
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
[1]1995: Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ, Bantam Books. ISBN 978-0-553-38371-3
[2]Emotional intelligence as a standard intelligence. Mayer, John D. Salovey, Peter Caruso, David R. Sitarenios, Gill 2001 standard intelligence. Emotion, 1(3), 232–242.
http://www.gruberpeplab.com/teaching/psych3131_spring2015/documents/13.2_Mayer_2000_EmotionIntelligenceMeetsStandardsForTraditionalIntelligence.pdf
[3]情動知能尺度(EQS : エクス)の開発と因子的妥当性, 信頼性の検討 大竹 恵子 島井 哲志 内山 喜久雄 宇津木 成介 2001 産業ストレス研究 8(3), 153-161,
*その他の参考文献
EQ教育の効果測定のための尺度開発 小松佐穂子 岡野啓介 石川英樹 日本認知心理学会第14回大会 2016 セッションID: P3-10 DOI https://doi.org/10.14875/cogpsy.2016.0_118
EQ 尺度 マニュアル 内山喜久雄 島井哲志 宇津木成介大竹恵子 2001 実務教育出版,
Empathizing-Systemizing モデルによる性差の検討 Empathizing 指数 (EQ) と Systemizing 指数 (SQ) による個人差の測定 若林 明雄 バロン-コーエン サイモン ウィールライト サリー 2006 心理学研究 77 巻
児童用情動知能尺度の開発とその信頼性・妥当性の検討 皆川 直凡 片瀬 力丸 大竹 恵子 島井 哲志 2010 鳴門教育大学研究紀要 鳴門教育大学 編 25, 31-37