人間は生涯、8万時間近く会話すると言われています。これまでの研究で、会話が不足すると、孤独感・対人不安・抑うつ感につながりやすいことがわかっています。そこでメンタルヘルスに重要な影響がある会話力について、診断を作成することとしました。
会話は大きくわけて、相手の話を聞く「傾聴」と、言葉で相手に伝える「発話」があります。この、聞くスキル・話すスキルについては、個人の中でも偏りがある傾向にあります。例えば、聞き上手だけど話すのが苦手な人や、話すのは得意だけど、聞くのが苦手な方がいます。
そこで当尺度では、聞く、話すスキルの高い・低いを診断し、各タイプそれぞれの特徴と改善点を解説しています。それでは早速、診断にチャレンジしてみましょう。
●傾聴力尺度について
聞く力を測定する尺度としては、上野(2005)[1]、西道ら(2011)[2]の研究が挙げられます。しかし、あくまでコミュニケーションスキルの下位因子、社会人基礎力の下位因子として挙げられているものであり、聞く力を詳しく分析したものではありません。
●発話力尺度について
話す力については、丹羽ら(2011)、森脇(2002)らの研究が挙げられます。特に森脇の研究は話す力の近接概念である自己開示を詳細に分析しています。具体的には、適切な自己開示が3因子、不適切な自己開示が4因子抽出されています。
●総合的な検討
このように先行研究を調査した結果、傾聴スキル、発話スキルそれぞれの関連研究はあるものの、充分とはいえません。そこで尺度の作成にあたっては、民間の書籍、人工知能に関する会話研究、ソーシャルスキル研究なども参考としました。
それぞれの測定項目について、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となり、ブレーンストーミングを行いました。その後KJ法により、グルーピングを行い、検討を加えたうえで質問項目を精査してました。結果として、聞く力、話す力、それぞれ5つの因子を予測しました。また簡易診断とするためそれぞれの因子について2つの質問を採用しました。
- <聞く力>
- *オウム返し
- 相手の話を繰返すことができる
- 相手の話を整理して返すことができる
- *肯定返し
- 相手の話を肯定的に返す
- 褒め上手なほうだ
- *質問力
- 質問をたくさん思いつく
- 質問攻めにすることはない
- *共感力
- 相手の感情の変化を敏感に読み取る
- 共感的に聞くことができる
- *非言語力
- ゆったりとした口調で傾聴する
- 穏やかな笑顔で傾聴する
- <話す力>
- *話題の豊富さ
- 日常的な出来事から話題を作れる
- 話題は豊富な方だ
- *持続性
- ボリュームを持たせた話ができる
- 1つの話を膨らませることができる
- *積極性
- 受け身ではなく自分から話をする
- 自己開示を積極的にするほうだ
- *ユーモア
- 興味を引く話し方ができる
- 聞き手を笑わせることができる
- *非言語力
- 身振り手振りが豊かである
- 声や表情に抑揚がある
当尺度では、以下の9のタイプを設定しています。タイトルについては協議の上、
親しみいやすい名前を付けました。
聞く力‐高い・話す力‐高い 万能型
聞く力‐高い・話す力‐中程度 もてなし上手型
聞く力‐高い・話す力‐低い カウンセラー型
聞く力‐中程度・話す力‐高い 芸人型
聞く力‐中程度・話す力‐中程度 バランス型
聞く力‐中程度・話す力‐低い 受け身型
聞く力‐低い・話す力‐高い おしゃべりピーちゃん型
聞く力‐低い・話す力‐中程度 自己開示型
聞く力‐低い・話す力‐低い さとり型
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
[1]看護師における患者とのコミュニケーションスキル測定尺度の開発 上野 栄一 2005 日本看護科学会誌 25 巻 ( 2 号
[2]社会人基礎力の測定に関する尺度構成の試み 西道実 - プール学院大学研究紀要, 2011・積極的傾聴法 楡木満生 - 医学教育, 1989
[3]自己開示の深さを測定する尺度の開発 丹羽 空, 丸野 俊一 2009 パーソナリティ研究 18 巻 3 号
[4]大学生における自己開示方法および被開示者の反応の尺度作成の試み 森脇 愛子, 坂本 真士, 丹野 義彦 2002 性格心理学研究 11 巻 1 号
*その他の参考文献
インタラクティブ・コミュニケーションにおける傾聴尺度の概観(1)―マーケティング・コミュニケーションの視点から―松本大吾
改訂版聴くスキル尺度の大学生への適用の検討1) 藤原健志 三宅拓人 演口佳和 2014
Argyle, M. (1981). Social competence and mentalhealth.
相川充・藤田正美 (2005). 成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成 東京学芸大学紀要1部門, 56,87-93.
成人に対する言語ソーシャルスキルトレーニングの開発と主観的適応状態への影響 目白大学大学院 現代心理学専攻 川島達史 2013 修士論文
好感をもたらす非言語コミュニケーションに関する研究 目白大学大学院 現代心理学専攻 梅野利奈 2015 修士論文
勝原裕美 増野園恵 日本の看護職のためのアサーティブネス・トレーニングプログラムの開発一試案の作 成と有効性の評価 一,兵庫県立看護大学紀要 2001
音声対話ロボットのための傾聴システムの開発 下岡 和也, 徳久 良子, 吉村 貴克, 星野 博之, 渡部 生聖 2017 自然言語処理 24 巻 1 号