ビジネス版エゴグラム性格診断は、仕事における思考や行動のパターンを、5つの視点から見つめ直す心理テストです。従来のエゴグラムは、主に日常生活と仕事を特に分けることなく診断することを前提としていました。しかし、多くの人は日常生活と仕事を切り分けて行動しており、目的に応じて自我状態を変化させている一面もあります。
そこで、ビジネス場面における個人の強みと課題を明確にする「ビジネス版エゴグラム」を開発しました。診断では、以下の5つの「自我状態(Ego State)」の活性度を測定し、今のあなたのビジネススタイルを推測していきます。
冷静に情報を整理し、合理的に判断する自我状態。感情に流されず、ファクトをもとに意思決定を行える力です。リスク分析や問題解決能力にもつながります。
ビジネス版エゴグラム性格診断では、「自分のタイプ」や「どの自我状態がどの程度活性化しているか」がわかります。
ただし、高ければよい、低ければ悪いというものではありません。それぞれに長所と注意点があり、理想的なバランスは職業や役割によって異なります。まずは、自己理解のヒントを得るくらいの感覚で、診断してみてください。
1. エゴグラムの基礎となる先行研究の分析
エゴグラムは、精神科医エリック・バーンが1950年代に提唱した交流分析(Transactional Analysis, TA)が基盤となっています。バーンは、人のパーソナリティを「親(Parent)」「成人(Adult)」「子ども(Child)」の3つの自我状態として説明しました【1】。
その後、バーンの同僚であったジョン・M・デュセイが、個人の自我状態のエネルギーを測定する方法として1977年にエゴグラムを開発しました【2】。エゴグラムでは、以下の5つの自我状態をグラフ化し、個人の性格傾向を分析します。
CP(Critical Parent):批判的な親
*書籍によっては「Controlling Parent; 支配的な親」と表記される場合もあります
NP(Nurturing Parent):養育的な親
A(Adult):大人
FC(Free Child):自由な子ども
AC(Adapted Child):順応した子ども
当初は直感的にエネルギー配分を棒グラフで表現する方法でしたが、その後、これを数量的に表現する方法が考案され、質問紙法エゴグラムへと発展しました。
日本でも質問紙法エゴグラムが開発されており、1970年代には杉田ら【3】や岩井ら【4】がそれぞれ作成しています。中でも、1984年に石川らによって作成された東大式エゴグラム(TEG)は特に有名で、現在も企業研修、心理カウンセリング、医療機関などで広く活用されています【5】。
従来のエゴグラムは、日常生活と仕事を明確に区別せず診断することを前提としていました。しかし、多くの人は日常生活と仕事を切り分けて行動し、状況に応じて自我状態を変化させています。また、ビジネス場面でエゴグラムを活用する際、その解釈が日常生活を前提としているため、使いにくいという意見もありました。
これらの課題を解決するため、私たちはビジネス場面に特化し、個人の強みと課題を明確にするビジネス版エゴグラムの開発に着手しました。
先行研究を参考に、エゴグラムの知識を持つ臨床心理士、公認心理師、現役経営者が検討を重ね、各自我状態について10問ずつ質問を作成しました。
- 【CP(Critical Parent)】規律と責任を重んじる力
- ・ミスをした人に遠慮せず指摘する
- ・納期が遅れることはめったにない
- ・ルールを曖昧にしてはならないと思う
- ・仕事の質に常にこだわりたい
- ・「こうあるべきだ」と感じる場面が多い
- ・一度決めたことは必ずやり遂げる
- ・任された仕事には強い責任感を持つ方だ
- ・仕事上の信念を絶対に曲げない
- ・決まりを守らない人がいつも気になる
- ・周りの仕事ぶりにイライラする方だ
- 【NP(Nurturing Parent)】支援と共感を生む力
- ・「困ってないか」と小まめに声をかける
- ・自分の表情は穏やかで柔らかいと思う
- ・相手の気持ちに寄り添いながら話を聞く
- ・仕事の悩みは共感的に聴く
- ・安心して話せる雰囲気を心がけている
- ・周囲から「話しやすい人」と言われる
- ・ミスをした人に励ましの言葉をかける
- ・体調を気づかう声かけをする
- ・後輩や部下の様子によく気を配る
- ・仲間のストレスに気を配る
- 【A(Adult)】論理と判断の力
- ・トラブルの原因を冷静に分析する
- ・感情よりも事実に基づいて判断する
- ・複数の解決策をすぐに思いつく
- ・中央値,期待値など統計用語を理解している
- ・仕事に必要な知識を積極的に学んでいる
- ・想定されるリスクや展開を事前に考える
- ・筋道を立ててわかりやすく説明できる
- ・他者を説得することが得意だ
- ・数字の分析や処理は得意な方だ
- ・リスクとリターンを見比べて決定する
- 【FC(Free Child)】柔軟性と創造性を生む力
- ・新しい仕事や挑戦にわくわくする
- ・ユーモアのある職場で働きたい
- ・失敗してもポジティブに切り替えられる
- ・笑顔で仕事をしていることが多い
- ・好奇心を持って仕事に取り組んでいる
- ・場の雰囲気を明るくするのが得意だ
- ・自由にアイデアを出すことが好きだ
- ・チームでの雑談や会話を楽しめる
- ・日々変化のある仕事に魅力を感じる
- ・色々な人と出会う仕事が好きだ
- 【AC(Adapted Child)】調整と協調を促す力
- ・周囲の意見に合わせることが多い
- ・自分の意見よりも職場の調和を優先する
- ・管理職にはなるべくなりたくない
- ・個人よりチームで仕事をしたい
- ・自分の考えがあっても口に出せないことがある
- ・相手からどう見られるかを常に意識している
- ・話し合いでは相手の意見を優先することが多い
- ・理不尽な指摘をされても受け入れる
- ・自分に非がなくても謝ることがある
- ・会議の席で自分の意見を言わない方だ
ⅰ.得点の算出方法
回答形式は3件法を採用しました。
「はい=2点」「どちらでもない=1点」「いいえ=0点」として集計します。
各自我状態(CP・NP・A・FC・AC)は10問ずつで構成されており、得点は0~20点で算出されます。
この得点は、以下の3段階で評価されます。
0~8点:低い
9~14点:中間
15~20点:高い
ⅱ.タイプ分類の方法
5つの自我状態それぞれに対して「高・中・低」の3段階で判定を行うため、243通りの組み合わせがあります。この243パターンをもとに、31のタイプを作成しました。各タイプには親しみやすい名称をつけ、それぞれのタイプごとに社内・社外での長所と短所を記述しています。
- CP優位 まじめな職人タイプ
- CP低位 柔軟寛容タイプ
- NP優位 共感タイプ
- NP低位 中立・公平タイプ
- A優位 ロジカル分析タイプ
- A低位 直感重視タイプ
- FC優位 企画発想タイプ
- FC低位 冷静堅実タイプ
- AC優位 協調性重視タイプ
- AC低位 起業・開拓タイプ
- P優位 理想の上司タイプ
- P低位 ベンチャータイプ
- C優位 ムードメーカータイプ
- C低位 相談役タイプ
- M型 人情派タイプ
- W型 分析官タイプ
- N型 I 寄り添い支援タイプ
- N型 II 縁の下の力持ちタイプ
- N型 III 頭脳派支援タイプ
- 逆N型 I 結果にコミットタイプ
- 逆N型 II 求道者タイプ
- 逆N型 III クリエイタータイプ
- U型 I 職務遂行タイプ
- U型 II パッション重視タイプ
- U型 III サポート支援タイプ
- 台形型 I 寛容なリーダータイプ
- 台形型 II よき理解者タイプ
- 台形型 III 創造的な頭脳派タイプ
- 平坦低 コツコツ穏やかタイプ
- 平坦中 バランス重視タイプ
- 平坦高 花形社員タイプ
タイプ別診断とは別に、各自我状態の得点を5段階で評価し、その特徴について個別に解説しています。各段階の基準は以下のとおりです。
かなり低い:0~7点
やや低い :8~10点
中程度 :11~13点
高い :14~16点
かなり高い:17~20点
それぞれの基準ごとに、長所と注意点を記述しました。
診断結果では、31タイプそれぞれに対して、特徴や注意点を2,000文字前後で記述しています。これらの内容は、先行研究と作成者の臨床経験に基づいて作成されました。
本診断は、因子構造の検討や信頼性・妥当性の統計的な検証を行っていません。そのため、研究や臨床評価に耐える学術的な尺度ではない点をご理解ください。
この診断の作成にあたり、以下の文献を参考にしました。
【1】Berne, E. (1961). Transactional analysis in psychotherapy. Grove Press.
【2】Dusay, J. M. (1977). EGOGRAMS: How I see you and you see me. Harper & Row Publishers.
【3】杉田峰康ほか(1979). 新しいエゴグラム・チェックリスト(ECL)について. 交流分析研究, 4(1), 28-40.
【4】岩井浩一ほか(1977). 質問紙法エゴグラムの臨床的応用. 交流分析研究, 2(1), 3-13.
【5】石川中ほか(1984). TEG<東大式エゴグラム>手引き. 金子書房.
【その他参考文献】
繁田千恵(2004). いい人間関係が面白いほど出来る本. 中経出版.
繁田千恵(2003). 日本における交流分析の発展と実践. 風間書房.
イアン・スチュアート、ヴァン・ジョインズ著、深沢道子監訳(1991). TA TODAY-最新交流分析入門. 実務教育出版.
ジョン・M・デュセイ著、池見酉次郎監修、新里里春訳(2000). 新装版 エゴグラム ひと目でわかる性格の自己診断. 創元社.
東京大学医学部心療内科TEG研究会編(2006). 新版TEGⅡ 解説とエゴグラム・パターン. 金子書房.