コーチング力は、メンバーの考える力を向上させ、目標達成を促すコミュニケーションの手コーチング力は、メンバーの考える力を向上させ、目標達成を促すコミュニケーションの手法です。特に管理職に必須のスキルとなります。当診断では、6つの指標でビジネス場面でのコーチング力を測ることができます。
ラポールの形成とは、心の繋がりや信頼関係を意味します。コーチと相手のラポールの形成はコーチングのあらゆる土台となります。日々の何気ないコミュニケーションを大事にしましょう。
コーチングがうまくいくためには、対象となる人の感情や考え方をしっかり把握する必要があります。その際必要なのが、オウム返し、肯定する力、質問する力などの傾聴力となります。
コーチングを成功させるには、相手の能力を把握し、適切な目標設定を手伝う必要があります。目標を達成するための資源を発見し、本人が気づくように促すことも大事です。
フィードバックは、相手の行動や努力を認め、改善点をわかりやすく伝えることで成長を促す重要な手法です。やる気や自己効力感を高める効果があります。
コーチング力の最も重要な目的は、相手の考える力、問題解決力を引き出すことです。チャレンジを積極的にさせることができているか、充分考える時間を与えているかなどチェックしましょう。
コーチング概念と歴史
・ 1970年代:インナーゲームの誕生
コーチングという概念は、1970年代にその萌芽を見せました。プロテニスコーチのティモシー・ガルウェイ(以下、ガルウェイ)が提唱した「インナーゲーム」は、選手の内的障壁を取り除き、自己学習を促す質問ベースのアプローチです[1]。このアプローチは、従来の指示・命令型の指導とは一線を画し、後のコーチングの発展に大きな影響を与えました。ガルウェイは技術指導だけでなく、内面的な心の状態に焦点を当て、自己認識と自己責任の重要性を強調しました。
・ 1990年代:アメリカにおけるコーチングの普及
1990年代には、「インナーゲーム」が「コーチング」と名称を変え、アメリカを中心にビジネスや自己啓発の分野で急速に普及しました[1][2]。ジョン・ウィットモア(以下、ウィットモア)はガルウェイの思想を基盤に、ビジネスコーチングの概念を発展させました。彼は「GROWモデル(Goal:目標、Reality:現状、Options:選択肢、Will:意志)」を確立し、コーチングプロセス全体を体系的に整理しました。このモデルは、ビジネスコーチングの実践で広く採用され、実証的な効果も報告されています。コーチングは、企業のリーダーシップ開発や個人のパフォーマンス向上に不可欠なツールとなりました。
・ 2000年代後半:日本への導入と多様な解釈
日本では2000年代後半から、主にビジネスシーンを中心にコーチングが導入され始めました。導入初期には、その定義や理解の仕方が多様で、一貫性を欠いていました。たとえば、スポーツ分野では「コーチング=指導」と理解される傾向がある一方で、ビジネス分野では「対話を通じて相手の内発的動機づけや能力開発を促す手法」として位置づけられていました。本稿では、コーチングを「対話を通じて相手の自己表現や目標達成を促進するコミュニケーション手法」と定義します。
コーチング尺度の発展:国内外の動向
コーチングの効果や質を測定・評価するため、国内外で多様な尺度(=評価指標)が開発されてきました。
・ 海外における尺度開発の動向
欧米では、コーチングの専門職化やエビデンスに基づく実践の広がりとともに、さまざまな評価尺度が開発されてきました。
・効果評価尺度:コーチングが目標達成、自己効力感、ウェルビーイング、パフォーマンス向上などにどの程度寄与するかを測定するための尺度が多数開発されています。International Coaching Federation(ICF)の調査もその一例です[3]。
・スキル評価尺度:コーチのスキルや能力(コンピテンシー)を評価するための尺度も多く、ICFのコアコンピテンシーに基づいた「Coaching Session Evaluation Scale(CSES)」などがあります[4][5]。
・メタ分析:近年では、コーチングの効果を統合的に検証するメタ分析が数多く行われています。これらは、職場におけるコーチングがスキル習得、感情調整、組織成果に肯定的な影響を与えることを示唆していますが、さらなる厳密な研究の必要性も指摘されています[6][7]。
・日本における尺度開発の動向
日本では、海外の知見を踏まえつつ、文化的背景や実践的文脈に即した尺度の開発が進められています。
・浜田・庄司(2013):日本のスポーツ心理学領域において、文化的特性や選手の傾向を反映したコーチング尺度を開発しました。研究は、コーチングが内発的動機づけやパフォーマンス向上に寄与する可能性を示しました[8]。
・島本ら(2015):スポーツ場面におけるコーチング行動を多面的に評価する尺度を開発。コミュニケーションスキル、フィードバックの質、選手の主体性を引き出す力などが測定項目とされ、実践的な研修や指導法の設計にも寄与しています[9]。
・清水ら(2018):グッドコーチの育成を目的とした評価尺度を開発し、コーチングと選手の関係性に関する多角的な分析を行いました。選手に対する心理的影響を検証し、実践現場での有効な指針を提示しています[10]。
尺度の作成にあたってはこれらの先行研究を参考にしました。
現役経営者、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となり、ブレーンストーミングを行い、その後グルーピングを行いました。その結果、6つのグループに分類されました。さらに検討を加え、各因子について4つの質問を設定し、合計24問の尺度を作成しました。
・ラポール形成力
積極的に声をかけ笑顔で接する
相手の目を見て挨拶する
感謝の気持ちを具体的に伝える
適度に雑談をして理解を深める
・傾聴力
共感的に話を聞く
考えを丁寧に受け止める
思考を深める質問を投げかける
最後まで集中して話を聞く
・アセスメント力
強みと弱みを客観的に把握する
行動の背景にある価値観を理解する
現在のスキルレベルを正確に測る
学習スタイルや成長パターンを見抜く
・フィードバック力
フィードバックを丁寧に行う
行動や努力を具体的に褒める
改善点を分かりやすく伝える
結果を問わず努力を評価する
・モチベーション力
達成後の未来をイメージさせる
目標を主体的に決めさせる
失敗時、積極的に励ます
成功を心から一緒に喜ぶ
・問題解決力の育成力
仮説検証の実行を促す
失敗から改善策を引き出す
積極的に権限を委譲する
再挑戦の機会を繰り返し与える
●質問項目数
6因子×各4問
●5件法
全く当てはまらない 0
当てはまらない 1
どちらともいえない 2
当てはまる 3
よく当てはまる 4
●各因子 高中低の基準
12~16 良好、8~11 やや注意、0~7 注意
●総合評価の基準
78~96点 かなり良好
64~77点 良好
49~63点 やや注意
0~48点 注意
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
[1] Gallwey, W. T. (1974). The Inner Game of Tennis. New York: Random House.
[2] Whitmore, J. (1992). Coaching for Performance: GROWing People, Performance and Purpose. Nicholas Brealey Publishing.
[3] International Coaching Federation. (2020). 2020 ICF Global Coaching Study. ICF.
[4] International Coaching Federation. (n.d.). ICF Core Competencies. Retrieved from https://coachingfederation.org/credentials/core-competencies
[5] Baron, L., & Morin, S. (2009). The Coaching Session Evaluation Scale (CSES): Development and preliminary validation. International Journal of Coaching in Organizations, 7(1), 84–98.
[6] Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1–18.
[7] Sonesh, S. C., Coultas, C. W., Lacerenza, C. N., Marlow, S. L., Benishek, L. E., & Salas, E. (2015). The power of coaching: A meta-analytic investigation. Journal of Organizational Behavior, 36(1), 1–30.
[8] 浜田百合・庄司裕子 (2013). コーチングの心理的効果に関する研究. 日本感性工学会論文誌, 12(2), 165–171.
[9] 島本好平・壺阪圭祐・木内敦詞・石井源信 (2015). ライフスキルの獲得を促すスポーツコーチングスキル尺度の開発. 笹川スポーツ助成報告.
[10] 清水智弘・榎本恭介・額賀將・荒井弘和 (2018). グッドコーチ育成のためのコーチング評価尺度の開発およびコーチングと選手との関連. 笹川スポーツ研究助成報告書, 307–313.