自分中心に物事を考え、合わない意見には聞く耳をもたない表現スタイルとなります。攻撃的自己表現が強い方は、他人の気持ちを考えずに、一方的に主張することが多く、人間関係でトラブルを抱えやすくなります。
非主張的自己表現は、自分の気持ちをないがしろにし、相手の気持ちを最優先にする表現スタイルです。主張するのが苦手で我慢を続けます。ストレスをためやすく、深刻な状況になると、職場うつ、適応障害と言った心の病につながることもあります。
アサーティブな自己表現は、自分と他人、お互いを尊重しながら、建設的な関係を築く表現スタイルです。アサーティブな方は、自分の意見、相手の意見を、伝えあい、よりよい関係を築く努力をしていきます。
当尺度では、3つの自己表現を土台として、9のタイプに分類をしました。各タイプにはそれぞれの特徴と改善点を解説しています。是非参考にしてください。
*歴史的背景
アサーションは、1949年に行動療法家アンドリュー・ソルターが提唱した「条件反射療法」に端を発します【1】。
ソルターは、過度なしつけにより自己主張が困難になった人々には、健全な自己主張=アサーションが必要であると考えました。1950年代には精神科医ジョセフ・ウォルピが、対人関係の不安を抱える人々に対してアサーショントレーニングを開発し、不安の軽減や表現力の向上に効果を示しました【2】。
1970年代には、ロバート・アルベティとマイケル・エモンズによる著書『Your Perfect Right』がベストセラーとなり、アサーションが広く一般に認知される契機となりました【3】。
また、マニュエル・J・スミスが『あなたの“NO”を言う技術』を通じて「アサーティブ権」という概念を提唱。アサーションは権利としての自己主張へと発展し、教育・福祉・ビジネスの場へと浸透していきました【4】。
今日では、アサーションは「相手を尊重しながら、自分の意見や感情を率直に伝える力」として、社会的スキルのひとつとして確立されています。
*尺度の開発
・Rathus, S. A.(1973)
Rathusによって開発された初期の代表的な尺度で、自己主張行動の頻度や傾向を評価します。臨床・教育・研究など多くの場面で使用され、国際的にも広く認知されています【5】。
・Galassi, J. P. ら(1974)
Galassiらが開発したCollege Self-Expression Scale(後のAdult Self-Expression Scale:ASES)は、成人のアサーション行動を測定する尺度として知られ、自己開示や主張行動など幅広い表現スタイルを捉えることができます【6】。
・町田ら(2020)
町田貴絵らは、看護師を対象に「看護師アサーティブネス評価尺度」の信頼性および妥当性を検討しました。看護現場での実践的スキル評価に活用されており、看護教育への応用が期待されています【7】。
・関口ら(2019)
関口由香らは、中高齢者を対象とした「アサーティブネス自己陳述尺度」を開発し、信頼性と妥当性を検討しました。加齢による表現傾向の変化をふまえた設計が特徴です【8】。
・鈴木ら(2017)
鈴木英子らは、女性の新卒看護師を対象にアサーティブネス尺度を作成し、職場適応や人間関係の構築に関する示唆を提示しました【9】。
・野末ら(2001)
野末武義らは、ナースのアサーション(自己表現)の特徴と関連要因を調査し、日本版Rathus尺度との関係性も含めて検討しました。特に看護管理者のアサーション傾向に着目しています【10】。
これらの先行研究を参考に、当尺度では「攻撃的自己表現」「非主張的自己表現」「アサーティブな自己表現」の3因子構成を採用し、診断項目の設計を行いました。
公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となり協議を行いました。協議の結果、攻撃的自己表現、非主張的自己表現の2因子を診断し、両者にあてはまらないタイプをアサーティブタイプと仮定しました。2因子については、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となり、ブレーンストーミングを行いました。その後、検討を加えたうえで質問項目を精査しました。短時間で診断が終わり、結果を把握できるようにするため、それぞれ10の項目を採用しました。
- ●攻撃的自己表現
- 批判をするとき口調が厳しくなる
- 議論をすると言い負かしてしまうことがある
- 相手よりも優位に立ちたいと思う
- 気がつくと相手を傷つけてしまうことがある
- 相手の気持ちを汲み取るのが苦手だ
- 相手の話を聴かない方だ
- 人の話に共感するのが苦手だ
- 指導されるのが嫌いだ
- 表情が険しい方だと思う
- ピリピリとした空気を出してしまう
- ●非主張的自己表現
- 言いたいことがあっても我慢する方だ
- 議論をするといつも負ける
- トラブルになっても話し合うことを避ける
- 卑屈になってしまうことが多い
- 怒られることが多いと感じる
- 周りの顔色をうかがう方だ
- 人の話ばかり聞いて自分の話をしない
- 基本的に受け身な方だ
- 自分の生き方を周りにゆだねる
- 嫌なことをされてもニコニコする
当尺度では、以下の9のタイプを設定しています。タイトルについては協議の上、親しみいやすい名前を付けました。
攻撃的表現‐強い・非主張的‐強い 怒り反動型
攻撃的表現‐強い・非主張的‐中程度 押しつけ型
攻撃的表現‐強い・非主張的‐低い ディベート型
攻撃的表現‐中程度・非主張的‐強い 協調型
攻撃的表現‐中程度・非主張的‐中程度 プチアサーティブ型
攻撃的表現‐中程度・非主張的‐低い 話し合い型
攻撃的表現‐低い・非主張的‐強い 非主張型
攻撃的表現‐低い・非主張的‐中程度 あったか型
攻撃的表現‐低い・非主張的‐低い アサーティブ型
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
【1】Solter, A. (1949). Conditioned Reflex Therapy. New York: Creative Age Press.
【2】Wolpe, J. (1958). Psychotherapy by Reciprocal Inhibition. Stanford University Press.
【3】Alberti, R. E., & Emmons, M. L. (1970). Your Perfect Right. Impact Publishers.
【4】Smith, M. J. (1975). When I Say No, I Feel Guilty. Bantam Books.
【5】Rathus, S. A. (1973). A 30-item schedule for assessing assertive behavior. Behavior Therapy, 4(3), 398–406.
【6】Galassi, J. P., DeLo, J. S., Galassi, M. D., & Bastien, S. (1974). The College Self-Expression Scale: A measure of assertiveness. Behavior Therapy, 5(2), 165–171.
【7】町田貴絵・鈴木英子・松尾まき・瀬戸口ひとみ・北島裕子・三輪聖恵(2020)『看護師アサーティブネス評価尺度の信頼性および妥当性の検証』日本健康医学会雑誌, 29(1).
【8】関口由香・長田由紀子(2019)『中高齢者のためのアサーティブネス自己陳述尺度の開発:信頼性および妥当性の検討利用』.
【9】鈴木英子・髙山裕子・丸山昭子・吾妻知美・冨田幸江・山本貴子・松尾まき・小檜山敦子・佐藤京子(2017)『女性の新卒看護師のアサーティブネス尺度の開発』日本看護科学会誌, 37巻.
【10】野末武義・野末聖香(2001)『ナースのアサーション(自己表現)に関する研究(1)―ナースのアサーション(自己表現)の特徴と関連要因―』日精保健看会誌, 10(1), 86–94.