①と②の結果を元に、9つのタイプがわかります。例えば、負担が大きい環境でもストレスを感じない方もいます。そのような方はストレス耐性が強いタイプとなります。
この診断は、ストレスの原因となる環境(ストレッサー)と、それに対する個人の心身の反応(ストレス状態)という二つの側面から、現在のストレス状況を多角的に評価し、その特徴を把握することを目指しています。これにより、自身のストレス要因と反応のパターンを理解し、適切な対処法を検討する一助となるよう設計されています。
ストレスに関する診断尺度は多岐にわたりますが、代表的なものとして厚生労働省の「ストレスチェック尺度」[1]や、鈴木らによる「心理的ストレス反応測定尺度(SRS-18)尺度」[2]などが挙げられます。これらの尺度は、主に個人のストレス症状や心理的・身体的反応を詳細に把握する点で優れています。
一方で、この診断では、これらの既存尺度と差別化を図り、ストレスの原因となる客観的な生活上の出来事(ストレス環境)と、それに対する個人の主観的な適応状況(ストレス状態)という両面からアプローチします。特に、Holmesらが提唱した「社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale: SRRS)」[3]に注目し、人生の主要な出来事が個人に与えるストレス負荷の関連性について深く分析しました。
HolmesのSRRSは、欧米の文化や当時の社会状況を反映した項目が含まれています(例:クリスマス、1万ドル以上の借金、教会活動の変化など)。そのため、尺度の作成にあたっては、八尋ら[4]や荒井ら[5]によるSRRSの検討結果も踏まえ、欧米に限らず、世界的な基準の生活習慣、文化、そして日本人のライフスタイルに合致するストレス要因を洗い出し、再編成することに注力しました。これにより、普遍的なストレス要因と、それらが個人の心身に与える影響を評価できる診断ツールを目指しています。
測定項目を具体化するため、公認心理師、臨床心理士、および心理学の大学院修了者からなる専門家チームが中心となり、以下の手順で質問項目を精査しました。
まず、幅広い視点からストレスに関連する様々な出来事や心理状態の候補を抽出するため、ブレーンストーミングを複数回実施しました。次に、これらの候補をKJ法を用いて内容ごとにグルーピングし、各グループの概念的な整合性を確認しました。この過程で、各項目が診断の目的に合致しているか、項目間で重複がないか、また、対象となるストレス要因や状態を網羅的に評価できるかといった観点から厳密な検討を加え、最終的な質問項目を決定しました。
①ストレス環境質問項目
この項目では、客観的な生活上の出来事や状況が個人に与えるストレスの負荷を評価します。専門家チーム(公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院修了者3名)が、各質問項目が一般的に引き起こすストレスの大きさを100点満点で個別に評価しました。評価は、各専門家の臨床経験と、先行研究で示唆される各出来事のストレス負荷に関する知見に基づいて行われました。その後、各専門家の評価の平均値を算出し、これを重み付け得点として採用しました。このプロセスにより、個々のストレス要因が持つ相対的な影響度を数値化しています。
【質問項目と重み付け得点】
1配偶者との死別 100
2自然災害の被害 95
3深刻なハラスメント 92
4予期せぬ失業・解雇 90
5家族の大きな病・事故 88
6自身の大きな病・事故 85
7離婚や別居の経験 82
8親族との死別経験 80
9生活困窮・貧困状態 78
10出産や幼児期の子育て 75
11ローンや家賃の滞納 72
12訴訟や法的な争い 70
13引越しなど住環境変化 68
14責任の重い仕事 65
15雇用・契約の不安定 63
16職場環境の悪化 60
17家族などの介護負担 58
18突然の高額な出費 55
19高齢の親との同居 53
20投資による金銭損失 50
21転職・配置の変更 48
22長期的な人間関係不和 45
23恋愛関係の不調 42
24児童期の育児負担 40
25孤独感・孤立状態 38
26昇進や昇格の重圧 35
27進学・卒業・進路変更 32
28夫婦・恋人の対立 30
29通勤や移動の長時間化 28
30睡眠リズムの乱れ 25
31偏った食生活 23
32健康や容姿への不安 21
33住環境でのトラブル 20
34休日・休息の不足 18
35長時間のデジタル使用 15
36運動する機会の不足 13
37日常会話の不足 10
38掃除不足・不衛生 8
39政治・社会の不安 6
40自然に触れない生活 3
【回答方式と得点計算】
あてはまる: 選択された項目の重み付け得点 × 100%
ややあてはまる: 選択された項目の重み付け得点 × 50%
あてはまらない: 選択された項目の重み付け得点 × 0%
【ストレス環境レベルの判定基準】
高ストレス環境: 合計点 180点 以上
中ストレス環境: 合計点 70点 ~ 179点
低ストレス環境: 合計点 69点 以下
②ストレス状態質問項目
この項目では、現在の個人の心身の調子や、ストレスに対する自己認識、対処資源の有無を評価します。ストレス反応やコーピングメカニズムに関する先行研究を深く吟味し、心理学的な観点から重要と考えられる以下の10の質問を作成しました。これらの質問は、ポジティブな側面から個人の適応状態を測るように構成されています。
うまく物事が進んでいると感じる
穏やかな生活を送っている
努力が実る環境だと感じる
自分自身で問題を解決できると感じる
イライラを抑えることができる
感情のコントロールができる
助けてくれる友達がいる
人間関係が充実している
睡眠が安定している
身体に疲れを感じない
【回答方式と得点配分】
あてはまる: 3点
どちらでもない: 6点
あてはまらない: 10点
(注釈: 各質問項目はポジティブな状態を表しており、「あてはまらない」を選択するほど、その状態が満たされていない、すなわちストレス状態が高いと評価される得点設計となっています。)
【ストレス状態レベルの判定基準】
高ストレス状態: 合計点80点以上
中ストレス状態: 合0点60点~79点
低ストレス状態: 合計点59点以下
「ストレス環境」評価と「ストレス状態」評価の組み合わせにより、以下の9つのストレスタイプを設定しました。各タイプの名称は、専門家チームによる複数回の協議を経て、それぞれのタイプが示すストレス状況と個人の適応パターンを端的に表現するよう決定しました。
高ストレス環境×高ストレス状態 頑張りすぎ型
高ストレス環境×中ストレス状態処理上手型
高ストレス環境×低ストレス状態 タフマン型
中ストレス環境×高ストレス状態 溜め込み型
中ストレス環境×中ストレス状態 バランス型
中ストレス環境×低ストレス状態 コーピング名人型
低ストレス環境×高ストレス状態 緊急事態型
低ストレス環境×中ストレス状態 要注意型
低ストレス環境×低ストレス状態 フリー型
診断結果については、それぞれのタイプごとに詳細な特徴、注意すべき点、そして具体的なアドバイスを約1,000文字で記述しています。この評価内容は、長年の臨床経験を持つ作成者の知見と、心理学分野における最新の先行研究に基づいています。
各タイプの特徴を深く掘り下げることで、ユーザーが自身のストレスパターンを客観的に理解できるよう促します。また、タイプ別に陥りやすい思考や行動のパターン、潜在的な心身のリスクについても言及し、早期の気づきを促します。さらに、タイプに応じた具体的な対処法やストレス軽減のためのセルフケアのヒントを提供することで、ユーザーが実生活で活用できる実践的な情報を提供します。必要に応じて、専門家への相談を検討するきっかけとなるような情報も含まれています。
本診断尺度は、専門家チームによる厳密な検討と先行研究の知見に基づき制作されましたが、因子構造分析および信頼性・妥当性の統計的検証は行われていません。これは、本診断が学術研究レベルの厳密な精神測定尺度として開発されたものではなく、あくまでも一般の方々が自身のストレス状況を把握し、セルフケアや専門機関への相談のきっかけとして活用することを目的とした簡易診断ツールであるためです。
したがって、本診断結果は、個人のストレス状況を理解するための一つの参考情報としてご活用ください。統計的な根拠が限定的であるため、研究目的での使用には適しておりません。
[1]15分でできる職場のストレスチェック - こころの耳 - 厚生労働省
[2]鈴木 伸一, 嶋田 洋徳, 三浦 正江, 片柳 弘司, 右馬埜 力也, 坂野 雄二 1997 新しい心理的ストレス反応尺度 (SRS-18) の開発と信頼性・妥当性の検討
[3]Holmes, T.H ,and Rahe, R.H. The Social Readjustment Rating Scale " Journal 0f Psychosomatic Research,1967,11,213‐ 218
[4]八尋 華那雄, 井上 眞人, 野沢 由美佳. (1993). ホームズらの社会的再適応評価尺度(SRRS)の日本人における検討. 健康心理学研究, 6(1), 18-32.
[5]荒井 康晴, 降矢 英成, 浅野 孝子, 川原 律子, 葛西 浩史. (1991). 日本人一般に於ける「社会的再適応評価尺度」に関する研究. 心身医学, 31(2), 115-124.