エゴグラムとは、交流分析という心理療法で使われる性格分析の手法です。まずは診断前にその意味を理解しておきましょう。エゴグラムでは心の中に以下の5つの自我状態があると考えます。
厳しい父親のような自我です。両親のしつけ、先生からの教え、社会のルールから影響を受けた自我状態を意味します。CPが強い方は、真面目な方が多く、誠実に物事をこなしていきます。
優しい母親のような自我です。やさしさ、慈愛に満ちた心、助けたいと思う自我状態を意味します。NPが強い方は、温かい雰囲気があり、困った人がいると放っておけなくなります。
成人らしい、冷静で客観的なバランスの取れた自我です。Aが強い方は、感情に流されることなく、論理的、合理的に考えることができます。計画性があり、大局観をもって物事に取り組むことができます。
遊び心に満ちた子供の自我です。感情的、本能的、創造的な原始的な自我状態を意味します。FCが強い方は、大人になっても遊び心が満載で、何事も自由に発想しながら行動していきます。
従順で顔色をうかがう子供の心です。協調性、空気を読む、指示通りに行動する自我状態を意味します。ACが強い方は、自己犠牲の精神が強く、集団の和を乱さないように行動することができます。
エゴグラム性格診断では、自我状態の「高い」「中程度」「低い」といった傾向がわかります。心の状態や人間関係に悩みがある場合は、この診断結果を自己理解や改善の手がかりとして活用してみてください。それでは、エゴグラム性格診断にチャレンジしてみましょう。
エゴグラムの源流と発展
エゴグラム診断の作成には、既存の研究や診断ツールの理解が不可欠です。今回の診断では、特に以下の点を中心に先行研究を分析しました。
・エゴグラムの誕生と初期の発展
エゴグラムは、交流分析の創始者であるエリック・バーンの同僚、ジョン・M・デューセイが1977年に開発しました[1]。デューセイは、個人の自我状態(親、成人、子ども)におけるエネルギーの配分を視覚的に捉える方法としてエゴグラムを考案。当初は、臨床家の直感に基づき、自我状態のエネルギー量を棒グラフで表現する主観的な手法でした。これは、治療者がクライアントの言動から得られる印象をもとに自我状態の活性度を評価し、個人のパーソナリティを大まかに把握するツールとして活用されていました。
・質問紙法の登場と客観化
その後、エゴグラムはより客観的な評価を可能にするため、質問紙法へと発展しました。質問紙法の開発により、個人の自我状態を数値化し、統計的に分析することが可能に。これにより、エゴグラムの診断精度と再現性が向上し、幅広い場面での活用が期待されるようになりました。質問紙形式のエゴグラムは、自己評価に基づいて自我状態のバランスを測定するため、より多くの人々が手軽に自身のパーソナリティ特性を理解する助けとなりました。
・代表的な質問紙法エゴグラム
質問紙法のエゴグラムとして、特に以下のものが有名です。
TEG(東大式エゴグラム)[2]:東京大学医学部心療内科TEG研究会によって開発されたエゴグラムです。日本国内で広く普及しており、その信頼性と妥当性が検証されています。TEGは、詳細な解説書とともに提供され、臨床だけでなく、教育やカウンセリングの分野でも活用されています。
SGE(自己成長エゴグラム)[3]:村上正人氏らが監修したエゴグラムで、自己成長に焦点を当てた診断が特徴です。SGEは、個人の内面的な成長を促すための手がかりを提供することを目指しており、パーソナルな成長支援に役立つツールとして利用されています。
これら以外にも、交流分析の実践家が独自に開発したエゴグラムが存在し、それぞれの目的や対象に応じた特徴を持っています。今回の診断尺度作成にあたっては、これらの先行研究で確立された概念や質問形式、評価方法などを参考にし、エゴグラム診断の理論的基盤を強化しました。先行研究の分析を通じて、エゴグラムの歴史的背景、理論的枠組み、そして実践的な適用方法を深く理解することができました。
先行研究で得られた知見を基に、エゴグラムの専門知識を持つ臨床心理士、公認心理師、心理系大学院修了者の3名による検討チームを編成し、各自我状態(CP、NP、A、FC、AC)につき10問、合計50問の質問項目を作成しました。質問項目は、各自我状態の特性を的確に捉え、自己評価しやすいように慎重に選定されています。
質問項目一覧
- CP(Critical Parent:批判的な親)
- 1:相手の間違いを指摘できる方だ
- 6:時間を厳守する方だ
- 11:規則やルールをしっかり守る
- 16:他人や自分を責めがちだ
- 21:「~すべき」という言葉をよく使う
- 26:決めたことは絶対に守りたい
- 31:責任感が強い方だ
- 36:自分の意見を変えない方だ
- 41:不正なことには妥協しない
- 46:無責任な人を許せない
- NP(Nurturing Parent:養育的な親)
- 2:思いやりがある方だ
- 7:人を褒めるのが得意だ
- 12:悩みをよく相談される
- 17:人の気持ちを考える方だ
- 22:映画やドラマで涙を流す
- 27:ボランティア活動をしたい
- 32:人や動物の世話が好きだ
- 37:口調は穏やかでやさしい
- 42:困っている人を積極的に助ける
- 47:子どもや目下の人を可愛いがる
- A(Adult:成人)
- 3:問題が起こった時に分析する方だ
- 8:物事を分析して、事実に基づいて考える
- 13:「なぜ」そうなのか理由を検討する
- 18:感情的というより論理的だ
- 23:社会問題に関心がある方だ
- 28:結末を予測して、準備をする
- 33:物事を冷静に判断する
- 38:客観性を大事にする
- 43:仕事や生活の予定を記録する
- 48:ほかの人ならどうするか、客観視する
- FC(Free Child:自由な子ども)
- 4:してみたいことが沢山ある
- 9:気分転換が上手い方だ
- 14:よく笑う方だと思う
- 19:好奇心が強い方だ
- 24:かなりポジティブな方だ
- 29:目立ちたがり屋な方だ
- 34:新しいことが好きだ
- 39:夢中になれることがある
- 44:趣味が多い方だ
- 49:「すごい」「わぁ」などリアクションが大きい
AC(Adapted Child:順応した子ども)-
- 5:周りの気持ちに合わせる
- 10:協調性がある方だ
- 15:迷惑をかけていないか絶えず気になる
- 20:相手の顔色をうかがう
- 25:不愉快なことでも口に出さない
- 30:よく思われようと振るまう
- 35:自分より相手の意見を尊重する
- 40:嫌われないように必死になる
- 45:嫌なことでも断れない
- 50:悪くもないのに謝ることが多い
本診断では、質問項目への回答を数値化し、各自我状態の得点を算出。その得点に基づいて個人の自我状態の特性を評価します。
・回答形式と得点算出
質問項目への回答は3件法を採用しました。
「はい=2点」「どちらでもない=1点」「いいえ=0点」
各自我状態(CP・NP・A・FC・AC)は10問ずつで構成されており、各自我状態の得点は0~20点の範囲で算出されます。
・各自我状態の3段階評価
算出された各自我状態の得点は、以下の3段階で評価されます。
0~8点:低い
9~14点:中間
15~20点:高い
・各自我状態の5段階評価
タイプ別診断とは別に、各自我状態の得点をさらに詳細な5段階で評価し、それぞれの特徴について個別に解説しています。各段階の基準は以下のとおりです。
かなり低い:0~7点
やや低い :8~10点
中程度 :11~13点
高い :14~16点
かなり高い:17~20点
評価をより分かりやすくするため、前述の243通りの組み合わせの中から、代表的な特性を持つ31のタイプを厳選しました。これらのタイプは、それぞれの自我状態のバランスがどのような特徴として現れるかを具体的に示しています。
タイプ名称の例
各タイプの名称は、エゴグラム診断に親しみやすさを加えるため、ユニークで覚えやすい言葉を選定しました。以下にその一部を紹介します。
- CP優位: 職人かたぎ
- CP低位: おっとりしたメイドさん
- NP優位: 大阪のおばちゃん
- NP低位: 公平な審判
- A優位: インテリ秀才
- A低位: 妄想全開の空想家
- FC優位: パーティーピープル
- FC低位: 縁の下の力持ち
- AC優位: 昭和のオンナ
- AC低位: ベンチャー起業家
- P優位: 理想の上司
- P低位: とっちゃん坊や
- C優位: 天真爛漫
- C低位: 紳士淑女タイプ
- M型: スナックのママ
- W型: 歴史に名を残す軍師
- N型Ⅰ: マザーテレサ
- N型Ⅱ: 野球部マネージャー
- N型Ⅲ: 御用聞き
- 逆N型Ⅰ: 警察官
- 逆N型Ⅱ: こだわり料理人
- 逆N型Ⅲ: クリエイター
- U型Ⅰ: 武士道
- U型Ⅱ: 熱血漢
- U型Ⅲ: 滅私奉公・おしん
- 台形型Ⅰ: 家族友人第一
- 台形型Ⅱ: 旅館の女将
- 台形型Ⅲ: ムードメーカー
- 平坦低: 省エネ
- 平坦中: お釈迦様
- 平坦高: スーパースター
診断結果については、作成された31の各タイプごとに、その特徴や注意点を約2,000文字で詳細に記述しました。これらの記述は、先行研究で得られた知見と、作成者の長年の臨床経験に基づいています。個々のタイプが持つ強みや弱み、人間関係における傾向、行動パターンなどを具体的に解説することで、診断を受けた方が自身のパーソナリティをより深く理解し、自己成長のきっかけとできるよう努めました。
本診断尺度は、エゴグラムに関する先行研究と、臨床心理士、公認心理師、心理系大学院修了者といった専門家の検討を経て作成されたものです。しかしながら、以下の点において限界があることをご理解ください。
本診断は、因子構造の検証、および統計的な信頼性・妥当性のチェックを行っていません。あくまで専門家としての経験と知見に基づいて作成されたものであり、厳密な統計的根拠に基づいた研究に耐えうるレベルの尺度ではないことをご承知おきください。このため、学術的な研究目的での使用には適しておりません。
本診断の作成にあたり、以下の文献を参考にしました。
[1] Dusay, J. M.(1977)EGOGRAMS: How I See You and You See Me?(池見酉次郎監修・新里里春訳)創元社(1980年)
東京大学医学部心療内科TEG研究会(2006)『新版TEGⅡ 解説とエゴグラム・パターン』金子書房.
村上正人監修・桂戴作・芦原睦(1999)『自己成長エゴグラムのすべて―SGEマニュアル』日本文化科学社.
*その他の参考文献
繁田千恵(2003)『日本における交流分析の発展と実践』風間書房.
繁田千恵(2004)『いい人間関係が面白いほど出来る本』中経出版.
Stewart, I. & Joines, V.(1991)TA TODAY: A New Introduction to Transactional Analysis(深沢道子監訳)実務教育出版.
Dusay, J. M.(2000)『新装版 エゴグラム ひと目でわかる性格の自己診断』(池見酉次郎監修・新里里春訳)創元社.